JRAのスリーアウト法導入についての一考察

先日JRAから発表された「2019年度競馬番組等について」の中で、未勝利戦の出走制限についての改正が、以下のように発表されました。

[2]3走成績による平地競走の出走制限について

より能力の拮抗した馬による競走を提供する等の観点から、3歳以上の未出走馬および未勝利馬が、新馬競走を除いた平地競走において3走連続して9着以下であった場合、2ヵ月間平地競走に出走できないことといたします

俺の案がパクられた!

というのは冗談であるが、6月のエントリーで書いた優先出走順位改革案に極めて近い内容であったのは正直驚いた。
ここではJRAがこの制度を導入する狙いと有効性、そして及ぼす影響を考察していこうと思う。


JRAは2000年の厩舎制度改革以降、増加する出走希望に対してレースの供給が追いつかず需給バランスが崩壊し除外問題を抱えている。
「何でそんな事になったの?」という疑問は、前記事からどうぞ。ただし長いよ。

その1.降級制度を廃止する理由とその疑問 
その2.降級廃止が招く混乱の可能性
その3.登録枠の拡大を再評価しよう
その4.私的3歳ダート路線整備論
その5.降級廃止にも対応できる優先出走順位改革案

問題の根幹から絞る!

競走馬の供給過剰状態を解消するには登録抹消を推進する必要がある。
現状でもそのための施策としてタイムオーバーが存在するが、未勝利戦においても出走馬の増加に対してタイムオーバー数は横ばいであり、その役割を果たしきれていない。

※注・本来はタイムオーバーとならない競走中の不利や疾病で大差負けしたケースも集計されています。

6月に書いた改革案では、タイムオーバーに代わる新たなルールとして、条件戦を対象に3連続凡走で優先出走順位を下げるスリーアウト法を提案した。
そして、今回発表されたJRAの改正策は、対象を未勝利戦としたスリーアウト法であった。

未勝利戦には未出走馬と既走馬が混ざる、ある意味不公平な時期があり、そういった競走に凡走馬の転出を促すルールを設けて良いのかという疑問があったのだが、JRAの出した答えは「問答無用」

私は上記の理由も含め、500万下~1600万下に溜まっている馬の転出を促す案を書いたのだが、このように問題が起きている箇所を直接叩くのは、後に続く現場の変化に場当たり的な対応となりがちである。
対してJRA案のように条件戦に流入してくる勝ち上がり馬そのものを減らし、源泉から絞る方が手順としては正しいだろう。
直接手を入れるより条件戦に及ぼす変化は緩やかとなるが、その分現場の反応に対して調整もしやすくなるはずだ。

という事で、この改正では転出を促すことによる未勝利戦の除外問題の解消のみならず、新馬・未勝利戦の施行数そのものを減らし、出走需要が増加する上級条件競走に割り当てるのが目的となる(併せて発表された未勝利戦終了の繰り上げもその一つ)。
もし、未勝利馬の転出が想定通りに行かなかった場合、条件戦にも似たような出走制限を設け転出を促すことになるが、そういった道筋を立てやすい点からも、JRAの手順が正道と言えると思う。
一応、未勝利とした別の理由があると思っているが、それは次ページに回して、まずは出走数の観点から掘り下げていこう。

実際に数字を出してみよう

では、JRAの改正で未勝利戦の出走回数をどれだけ削減できるか。
TARGETのデータから想定数を出してみた。
JRAの発表通り、未勝利戦で3走連続して9着以下となった馬を集計。
対象は2015年~2017年。
地方交流競走は含めていない。理由?、めんどくさいから
出走取消と競走除外は集計から除外。競走中止は9着以下扱いとした。

ではスリーアウト頭数から見てみよう。


※注・2度目のスリーアウトはカウントしていません。

3年で約3000頭がスリーアウトとなった。
未勝利戦の総出走頭数が13755頭なので、レースの使い方が変わらなければ約22%がアウトの烙印を押される事になる。
印象は人それぞれであると思うが、個人的には意外と多い印象だ。

続いて、これらのスリーアウトとなった馬が、アウト後にどれだけレースに出ていたかも出してみよう。
この数字はスリーアウト後の総出走回数なので8着以上も含まれている事にご注意を。
競走数削減の想定には、この出走回数規模が最も重要となる。

3年で約4900走がスリーアウト後の出走であった。
この出走分がそのまま削減できるのが理想的である。
未勝利戦の総出走回数が52027走なので既存のスリーアウト馬が占める割合は約9%。それなりのインパクトと言えるのではなかろうか。

しかし、スリーアウトになった馬が即転出ということはないだろう。
休養して復帰してくる馬もそれなりにいるはずなので、現実としては半数が実現できれば御の字といった所か。
という事で5%が競走数の削減に結びついたと仮定する。
未勝利戦は年間1150競走前後なので、約60競走
・・・・・・・・・微妙。
さらに言えば、現状でも未勝利戦は除外問題を抱えている訳で、それらが競走数削減の足枷となると???

出走需要は満たせるの?

2006年のクラス制度改革では、全体的なクラス所属頭数の押し上げにより準オープンで深刻な除外ラッシュが発生した。
JRAは出走需要対応のため約3年で準オープンを60~70競走も増発する事となり、出走数は1000鞍以上増加した。

今回の降級廃止では1000万下クラス、1600万下クラスは共に3割近く、実数では合わせて300頭前後の所属頭数が増えることになる。
1頭あたりの出走需要が年間5鞍とすると100競走前後の増発が必要だ。
さらに、これと別に非リステッド競走の増発も上乗せとなる。
果たして、条件馬の転出を促すことなく未勝利戦と500万下の削減で対応できるのだろうか。

現状でも除外問題を抱えているこれらの下級条件競走が、上級条件の出走需要を満たせる競走数を捻出できるか。
そして、最終的な目標である1頭あたりの出走数を回復させることはできるのか。
個人的には、上級条件に転出を促す直接的な施策を行わないのであれば、優先出走権に少し手を入れておいたほうが良いと思うが、それらも含め未知数の部分は多い。

修正しても文句は言わないでね

といった感じで不安点を挙げたが、この改正案は前回書いた通り柔軟性に優れているのも良い点だ。
さらなる転出を促す必要が有るのであれば、着順を厳しくする事で更に絞ることができるし、逆に未勝利の転出が多すぎるのであれば緩めることもできる。
また、上に書いたように条件クラスへの適用することによる調整も可能であるし、それらのシミュレートもこの記事のように比較的容易にできるのも魅力。ターザン山本並の自画自賛であるがJRAのお墨付きである。

今回の改正以降も現場側では色々と対応してくるだろうが、JRAも適時調整してくるだろうし、それは決して後ろ向きなことではない。
なので、JRAがコロコロ数字を変えてもあまり文句は言わないでね。

少しだけ次ページに続く


コメント

  1. GOING-KYO より:

    コメント失礼します。
    低資質の未勝利馬が3アウト回避のため、8頭立て以下の少頭数が予想される500万下にわざと格上挑戦するという抜け穴があると思うのですが、どうお考えでしょうか?

    • Luthier より:

      コメントありがとうございます

      個人的には全然アリだと思います。
      それでタイムオーバーにならなければ、出走に相応しい馬であるということになりますし、そうでなければタイムオーバーになるだけですから。
      削減が必要な短距離戦に少頭数戦もほとんどありませんし。