気がついたら前回のエントリーから4年もの月日が経過していました。
屈腱炎治療における幹細胞移植は10年以上スタート地点をぐるぐる回り続けてたわけですが、京都大学の力を借りて2019年、ついに出発進行。
医学の世界は日進月歩。
出発後の2020年~2023年でどれだけ前進させることが出来たのか。
2023年度の競走馬総合研究所年報に載っていたので、例によって紹介したいと思います。
ちなみに、前回までのエントリーはこちら。
続々・屈腱炎の幹細胞移植療法(ステムセル療法)の効果が見えてきた話
続・屈腱炎の幹細胞移植療法(ステムセル療法)に効果が無いという説
屈腱炎の幹細胞移植療法(ステムセル療法)に効果が無いという説
未だに屈腱炎と幹細胞の話だとカネヒキリを引き合いに出す人がいますが、カネヒキリの復活に幹細胞はほぼ関係ありません。単に角居厩舎スゲーって話で。
まぁ、引き合いに出してもいいけど、今の幹細胞移植は全く別物レベル。
別物というか単に注入しただけでは全く効果ない(患部に留まらない)ことが分かるまで10年以上掛かった訳でね。
ウマ間葉系幹細胞を用いた凝集体作製法の改良および治療効果に関する検討
【研究成績の概要】
①ウマMSC(間葉系幹細胞)凝集体の効率的な作製方法の確立(1・2年次)
多数の培養皿・培養方法をウマMSCに適用した。その結果、作製期間を従来の 1週間から2日に短縮し、均一サイズの凝集体を大量に作製できる効率的な培養方法(AGCグラスの利用)を確立した。また、臨床現場のニーズに応えるために、投与方法および培養期間の短縮を検討した。
その結果、従来の凝集体投与(20G針)よりも細い針(23G針)による投与が可能(凝集体サイズ= 97± 21.80μm)となり、局所投与時の侵襲性が低減した。
併せて、培養液中のFBSやFGF濃度の調整および培養手技の改善によって、投与可能なMSC数を従来の 2000万細胞から 1億細胞に増加した上で、骨髄採取から移植までの期間を概ね 2週間に短縮した。②ウマMSC凝集体のin vitro(試験管内)評価(2・4年次)
平面培養MSCとMSC凝集体(n=6)を用いて、組織修復に関連する複数の遺伝子量とVEGF蛋白量を両者間で比較した。
その結果、MSC凝集体の各遺伝子量は平面培養MSCよりも有意に高く、それぞれZFP42は2.0倍、Oct-4は4.9倍、CD44は2.2倍、CD105は2.3倍、FGFは1.4倍、HGFは3.3倍、PDGFRαは4.1倍、CXCR4は 5.6倍、STC-1は 5.5倍およびVEGFは 5.4倍であった。培養液中のVEGF蛋白量もMSC凝集体が平面培養MSCの 6.0倍であり、有意に高かった。③UTC(超音波組織特性評価)を用いた浅屈腱炎の評価方法の確立(3年次)
UTCを用いた浅屈腱炎の評価方法を、栗東トレーニング・センターおよび常磐支所の臨床例にて実施し、他者間再現性が高い浅屈腱炎評価法を確立した。
素人的に読み取れるのは、幹細胞の数を増やし、注入する際の馬体の負荷を減らし、ついでに治療効果の評価方法を改善しましたと。
絆創膏で薬を患部に定着させることが出来たから、今度は薬の量を増やしました的な感じ。
ただ、屈腱炎ではないんですが、注入する幹細胞の数を増やせば効果が増すわけではないという話も見たことがありまして、はてさてどうなったかといえば・・・
④浅屈腱炎に対する治療効果の評価(4年次)
両前浅屈腱炎モデル 6頭に対して、片側に平面培養MSC、もう片側にMSC凝集体を移植し、その後の治療効果を超音波検査と UTCを用いて評価した。超音波検査は低エコーの消失、腱内血管の消失および腱内硬さの回復までの期間を指標とした。UTCは腱線維配列の回復までの期間を指標とした。
その結果、低エコー消失まで(15.2週、9.2週;平面培養MSC、MSC凝集体)、血管消失まで(16.0週、13.7週 )、腱内硬さの回復まで (15.8週、7.0週)、腱線維配列の回復まで(14.0週、8.8週)の期間は、いずれもMSC凝集体の移植肢が有意に短かった。①~④の実験により、MSC凝集体の効率的な作製方法を確立し、そのMSC凝集体は、MSCの幹細胞性および成長因子等の放出能を高めること、および浅屈腱炎モデルに対する治療効果が従来の平面培養MSCよりも高いことを明らかにした。また、本研究を通じて、UTCによる他者間再現性が高い浅屈腱炎評価法を確立した。
数は正義でした。
前回の「やっと患部に幹細胞が定着しました」の段階でも多少の効果がありましたが、評価部分の差はあれ40%ぐらい回復効果が高まっとりますな。
壁を超えたら一気に加速する感じは、いかにも先端技術って感じですねぇ。
まぁ、これぐらいが最初に想定された幹細胞治療の効果という気もします。
ここから先も改良は続くとは思いますし、一番肝心なのは患部の強度でもあるんですが、基本的には細かい更新が続くぐらいでしょうからこのシリーズはこれにて完結。
次は、馬iPS細胞編でお会いしましょう。