続々・屈腱炎の幹細胞移植療法(ステムセル療法)の効果が見えてきた話

以前にサラッと書いた幹細胞の話。
2015年に書いたエントリーでは、組織再生の効果が明らかにならなかった研究を
2018年に書いたエントリーでは、効果があるのかどうか以前に移植した幹細胞が患部に定着してねぇ、という競走馬総合研究所の話を書きました。
その辺の研究成果もあってか、屈腱炎の幹細胞移植話があまり聞かれなくなっていましたが、去年辺りから復活気配。

その理由の一端が、去年の競走馬に関する調査研究発表会に書かれていたので、ここに紹介しておきたいと思います。

~生体吸収性微粒子を用いたウマ幹細胞凝集体の腱組織内における残存性~

【背景と目的】
幹細胞移植治療では、移植組織内における幹細胞の残存不良によって治療効果が減弱する。
現行の方法では、移植する幹細胞の回収時に細胞傷害性を有する剥離酵素を使用する必要がある。
しかし、剥離酵素による細胞死および接着能低下等が残存不良を惹起する原因の一つとされている。
生体吸収性微粒子(GMS)と幹細胞を混合培養して作製する凝集体は、回収時に剥離酵素を使用する必要がない。更に、GMS を通じて培地成分等が凝集体内部に浸透するため細胞活性が維持される(in vitro 研究;第60 回本会)。
この凝集体を利用すれば、移植した幹細胞の残存性向上が期待される。
今回は in vivo において凝集体の①腱組織内における残存性、②浅屈腱炎の修復効果について、現行の幹細胞単独移植と比較した。

~中略~

【結果】
①移植後 7、10、14 日目における凝集体移植腱の平均蛍光輝度は、それぞれ 15.0× 106、5.4× 106、5.1×106 であり、単独細胞移植腱の平均蛍光輝度(それぞれ 2.0× 106、0.7× 106、1.2× 106)より高かった。
②単独細胞移植腱と比較して、凝集体移植腱は低エコー率が早期に減少し、RTE ストレイン比が早期に上昇(各交互作用;P<0.01)した。
また、凝集体移植腱の RTE グレードおよび血管スコアが 1 になるまでの週数(各中央値;7 週、9 週)は、単独細胞移植腱(各 12 週、13 週)よりも有意に短かった(各 P<0.05)。

【考察】
実験①の結果から、幹細胞単独と比較して、凝集体は幹細胞を損傷部に長く残存させることが明らかになった。
低エコー率の推移から、単独細胞移植腱と比較して凝集体移植腱は血腫等の水分含量が高い脆弱組織が早期縮小したと考えられた。
また RTE ストレイン比・グレードの結果は、凝集体移植腱の損傷部における組織強度の早期回復を示唆する。
同様に、腱組織の炎症および修復過程と関連する血管スコアが凝集体移植腱において早期減少したことは、凝集体が腱損傷部の治癒進行を促進した可能性を示唆する。
以上のことから、GMSを用いたウマ幹細胞凝集体は浅屈腱炎に対する治療効果の向上に有用だと考えられた。

第61回競走馬に関する調査研究発表会
講演要旨より

って事で、幹細胞移植を屈腱炎治療に活かせるようになりました。
この治療が話題になったのがカネヒキリが復活した2008年辺りですから、10年以上前ですか。
効果を証明できねぇぞ→効果がない以前の段階でした→対策立てたら効果あったぞ
という紆余曲折に試行錯誤を積み重ねての成果。
治療法の確立ってのは、本当に大変なんですなぁ。
普通は「良い治療法ができたで~」の段階で一般的に広まる訳ですが、その前段階では大変な基礎研究の積み重ねがあると。
それをスタートから一部とはいえ追える事のできた貴重な機会でございました。
そういえば、最初の頃の記事だと「目的は完治度の向上であって治癒期間の短縮に効果は期待できない」みたいな話もありましたが、この研究要旨では、期間短縮にも効果は十分ありそうです。

ちなみに研究者の中には、JRA勢に混じって京大の再生医療研究者の名前が。
京大の再生医療すげぇ。
ips細胞のあれこれは東京農工大学とやってるみたいですが、幹細胞が一段落したら、こちらにも京大パワーを注入しちゃったりするのかしら。