イギリス競馬 ムチ協議会レポートを読む_その1

5. 現行のルールと罰則

英国レースにおける鞭の使用に関するルールは、2011年の見直しの後に大幅に改訂され、世界でも最も厳しい規則となりました。
騎手には以下のことが義務付けられています。

– レース中は鞭を携帯すること。
– 平地競走では最大7回まで、障害競走では最大8回まで鞭を使用できる。
o これ以上の回数になると、スチュワードはその騎乗を見直し、鞭のルールに違反していないかどうかを確認し、騎手にペナルティを課す。
スチュワードが検討するその他の要素には、例えば、使用の強さ、使用の位置、馬が反応するのに与えられた時間、馬が争っていたか、明らかに勝っていたか、などが含まれます。
罰則は通常、騎乗停止となりますが、場合によっては金銭的な罰則も適用されます。
スチュワードは、許可されたレベルを超える使用に対してペナルティを適用し、さらに騎乗中に犯した違反(例えば、上記の「その他の要因」として挙げられたもの)に対して追加のペナルティを適用します。
また、ルール違反が再犯であるかどうか、懲罰委員会へ付託する必要があるかどうかを検討します。
ムチの規則と罰則に関するより詳細な説明は、本報告書のセクション 4 に記載されています。

これは現在のルールで、後々に改正ルールが出てきます。
頭の隅に置いといて下さいってやつですね。
そういえばスチュワードってF1を見てる人なら普通の単語ですけど、一般的にはどうなんですかね。
審判員とか、競馬的には採決と訳して良いんでしょうけど、とりあえずここではそのまんま。
後の方で気まぐれに採決と置き直してるかもしれませんが。

6. 2010年以降の鞭制裁

馬福祉委員会によると「A Life Well Lived」で2010年から2018年までの鞭の反則を評価した際、鞭違反数はこの期間に40%減少。制裁は2日間騎乗停止が最も多く、全体の63%を占めています。
福祉戦略が発表されて以来、違反の記録数は変動していますが、過去10年間では全体的なに減少傾向を示しています。

海外の裁量基準だと2日騎乗停止<罰金(進上金没収)な事も多いので、その辺はJRAとは分けて考えてくだせぇ。
ちなみに、現行ルールでは主要レースで7日以上の騎乗停止事象から罰金が課されます。

7. 国際比較

国際競馬連盟(IFHA)は、すべての主要な統括団体が加盟しており、鞭の規制に関する国際的な最低基準を定めています。
このガイドラインは、各国が独自のルールや罰則を解釈し、発展させることができるようになっています。
その枠組みの中でも、鞭のルールは、各競馬場によって大きな違いがあります。

ずいぶんと前にオーストラリアのムチ制裁について書きましたが、ムチ制裁は国や地域によって様々。
これも後々に掘り下げられる点になっております。

8. エビデンスベース

BHA の2011 年レビューでは、ムチ打ちの影響に関する科学的研究を評価する際に、「いくつかの分野では証拠が限られており、さらなる研究が必要である」と指摘しています。
2019年にこのエビデンスを再評価した際、馬福祉委員会(HWB)は、2011年以降、さらなる研究が行われていますが、鞭の潜在的な福祉への影響に関する科学的な証拠は、まだ結論が出ていません。
運営グループは、科学の妥当性と有用性に関して様々な見解を示した。
しかし、この分野での今後の政策立案には、さらなる研究が大いに役立つという点では、全員が同意しています。
この分野の政策立案は、さらなる研究から大きな恩恵を受けるでしょう。

ムチの効果や心理や肉体面の負荷を科学的に定義せよ、というお話。
ぶっちゃけ、やり方次第でどうにでも解釈できる分野な研究ではありますが。
あと「ルールで縛る前にこっちをやれ」とか言わないであげてください。

9. 社会的・政治的背景

鞭に関連する社会的、政治的な背景は、馬福祉委員会の「A Life Well Lived」で広く議論されています。
この 文書は 2020 年 2 月に発表されましたが、ブレグジットやコロナなどの大きな問題に集中していることもあり、大きな変化を見出すことは困難な状況です。
世論調査でも、鞭を嫌がる国民が過半数を占めるという結果が続いています。
また、鞭の使い方(とそれを規定する規則)についてもほとんど理解されていません。
運営グループは、このことを念頭に置いて議論しました。

英国内の状況ですね。
【3. 協議形式とプロセス】の部分とも関連しますが一般的には「他の事で大変なんで競馬なんてどうでもいい」って感じもなきにしもあらず。

10. 協議会のテーマと結果

(a) 鞭のルールに関する見解
協議では、安全のための鞭の使用に関する懸念はほとんど出なかった。
鞭のルールに関する主な検討事項は、奮起させるための鞭使用に関するものであった。
– この点については意見が分かれ、レース界では、この目的のために鞭を保持することに賛成するグループが多かった(一方で鞭の使用をさらに制限することへの賛成も多かった)
対して鞭の使用頻度や回数については、普遍的な支持は得られなかったが、鞭の使用に関するより高い一貫性を確保する価値は認識されており、この原則を変更しようという動きはほとんどありませんでした。
鞭のルールの国際的な調和は、回答者の大多数によって望ましいと考えられていた。

これも後々で掘り下げられますが、気になったのは最後の一文。
国際舞台でまーたブリテン野郎が大きな顔して己の主(ry


(b) ペナルティに関する意見
現在の罰則の枠組みは、鞭打ちのルール違反に対する十分な抑止力にはなっておらず、より強化される必要があるとの意見が大半を占めた。
– この意見もまた、レース外の団体から最も強く表明されたものであるが、レース内の多くの団体、すなわち、レース関係者からも同様の意見があった(騎手以外)
– フォーカス・グループでも、重賞/リステッドレースやその他の高額レースに対する罰則を強化すべきだという強い意見が出た。
また、多くの回答者が、ルールや罰則そのものは問題ないが、それが実施されていないと感じていることも、一つのテーマとして浮かび上がってきた。


(c) 失格を含む罰則の拡大
回答者は、罰則の枠組みが主に騎手に焦点を当てたものであることが適切であるかどうかを検討しました。
全体の46%が「騎手だけでなく、馬主や調教師にも罰則を適用すべき」と考えていますが、競走関係者と観客とで意見が分かれ、後者の方が罰則を課すべきとする意見が多かった。
騎手以外の関係者にも適用できる制裁措置は失格や降着です。このような罰則に対する支持は、やはり競走関係者以外で最も強くなります。

これも後で触れられますが、失格処分を含むかの議論の過程が記されています。


(d)鞭の名称
国民の理解を得るために鞭の名称を変更しようという動きは、ほとんどのグループの間であまり見られませんでした。
全体として、回答者の6割は、鞭の名称を変更することに何の利点もないと考えている。
名称変更に賛成する人の中にも、特定の選択肢を支持する強いコンセンサスや具体的な代替案はなかった。

「whipって名前の印象が悪いから改名しようぜ!」
アホちゃうか。

新馬戦をメイクデビューみたいに、名称変更でイメージを一新しようと考えるレベルの人間はどこにでもいるという事なのでしょう。

11. 主な検討事項および原則

協議会のメンバーには、幅広い視点が含まれており、普遍的な同意が得られる問題は少なかった。
しかしながら、運営グループは、協議会で提起されたテーマを評価する際、できるだけ多くの分野でコンセンサスを求める必要性があることを認識した。
本報告書での提言の説明では、グループ内で見解の相違があった部分を明確にしている。
また、運営グループの議論の中で、いくつかの横断的なテーマが浮かび上がり、いくつかの重要な原則の基礎となった。

– 奮起させるための鞭の使用について、より考慮された、より賢明な使用を促進する規則。
– 鞭に対するよりバランスの取れた規制のアプローチ。現在の誤用に対する罰則に重点を置かず、教育、および使用基準の継続的な改善に重点を置く
– これを補完するスチュワーデイング・アプローチは、鞭の違反行為を特定し検討するために適切な時間が取られ、より慎重な措置を適用し、さらなる誤用をより積極的に防止することを保証するものである。
– 適切な裁量の要素を維持しつつ、鞭打ちの違反に対するスチュワードの一貫性を向上させる。
– 不正使用に対する効果的な抑止力としての罰則の必要性。規則を破る動機がより大きくなりそうな状況も含めて、罰則が誤用に対する効果的な抑止力として機能することが必要である。

これらの原則の合意にもかかわらず、運営グループの一部のメンバーは、奮起させるための鞭を取り除くことを希望していた事に留意する必要がある。

色んな人を集めた結果、なかなか意見がまとまりませんでした。
という至極真っ当な話。
で、撤廃派は死ぬまで折れん質の人間である事も示唆されております。

12. 推奨事項:ムチのルール

協議会は、以下の点について満場一致で合意した。
– 安全のための鞭の使用は、英国レースにおける鞭の規制の基礎であり続けるべきである。これは、この原則が広く受け入れられ、議論の余地のないものであることに留意し、完全性を期すために議論された。
– 安全性を考慮し、グループメンバーには、鞭の携帯の要件を緩和することに不安があったため、このルールに変更を加えることは提案されなかった。

鞭の携帯の要件とはなんぞや、という話ですが、後々の記述を読むと「鞭を持たんで騎乗してOK」とかいう話。
そんなルール変更をしたとして、本当に持たずに乗る騎手が出てくるのかしら。

(a) 奮起させるための使用
鞭を馬の奮起のために使うかどうかは、より難しい問題であった。
– 運営グループの大多数は、鞭を保持することに賛成であった。
しかし、グループの多くは、その使用についてより大きな制限を設けることに賛成しました。
– 奮起させるための鞭の廃止に賛成したのは少数派でした。

このような見解の広がりが、グループの議論と本報告書の勧告の作成を決定づけた。

最終的に、グループの大多数は、奮起させるための鞭を保持することに賛成することを決定しました。
完全な除去は次の意味で不釣り合いな反応になると感じています。

– 鞭のデザインや使用方法についてさらに説明をすると、否定的な意見も理解され受け入れるようになることがある。
– 鞭の使用頻度を減少を奨励するために、さらなる措置を講じることができる。
「より慎重で巧みな使用」これは提言の主要なテーマであった。
– 奮起させるための鞭を完全に除去するための過程のいくつかは、まだ検討・テストされていない。
– 鞭は、レース終盤で馬を集中させるための重要な道具である。

しかし、グループの中にはこのような見解を共有せず、鞭の使用には原則的に反対である一方で、このプロセスを前進させ改善することに同意した事には留意する必要がある。

(b) 頻度と許容される行動
運営グループは、鞭使用の回数規制は現在、世界中で広く受け入れられている原則であると結論づけた。
そして、ムチ規則の適用と施行において、より大きな一貫性を生み出すのに役立ってきたと結論付けた。
したがって、グループの大多数は、回数規制は当分維持するという結論に達した。

運営グループは、許容される鞭の使用頻度をさらに減らすかどうかという問題を真剣に検討した。
鞭の使用頻度を大幅に減らすか、または取り除くことを望む人々と、現在の頻度で十分だと考える人々との間で妥協した。
妥協とコンセンサスは異なります。
グループメンバーの中には、回数の削減は、鞭の使用基準を向上させ、不正使用を防止するという指導原則に当てはまらない、と懸念する意見もありました。
したがって、コンセンサスを得るために代替案を見つける必要がありました。
その結果、鞭の使用頻度ではなく、鞭の使い方に関連する解決策が見つかりました。

– 現在、一定の制限のもと、騎手はフォアハンドとバックハンドの両方のポジションで鞭を使うことが許されています。
– 使用頻度を維持しつつ、奮起させるための鞭の使用をバックハンドに限定することで、グループとしてのコンセンサスを得た。これは以下の理由から望ましいアプローチであった。

・バックハンドの姿勢で過剰な力で馬を打つことは、不可能ではありませんが、困難です。
・バックハンドは、腕を大きく動かすことを抑制し、よりきれいで、よりスタイリッシュで、そして肩の高さから過剰な力で鞭を使う可能性が低くなる。
・バックハンドは、多くの騎手が効果的に使っており、全ての騎手が習得し、訓練し、採用すべき動作である
・バックハンドのみでの使用は、国際的に普及しつつある規制のアプローチである

この変更に関連して、次のようないくつかの注意事項が適用された。
– フォアハンドポジションでの鞭の使用は、安全のためであれば引き続き許可される。
– 騎手の両手が手綱から離れない場合に限り、馬の肩から下への使用は許可される。
– 騎手が更なるトレーニングを受けるために、試用期間が適用される。
– フォアハンドポジションでの鞭の使用を誤用と定義し、適切なペナルティを適用する新たなガイダンスが必要である。

という事で、ムチはバックハンドのみの使用に規制する事となりました

バックハンドに規制する事で~とえらい長々書かれていますが、あまり合理性を感じさせない所に苦労が見受けられます。
「妥協と合意は異なる(Compromise is not the same as consensus)」とわざわざ書かれてますが、「みんなが妥協する事に合意した」という印象は否めませんな。
まぁ、妥協した上で踏み留まってくれた感はあるので、あまり文句を言ってはいけないのでしょうが


(c) 国際調和
運営グループは調和の原則を支持したが、これは主に英国競馬が最も密接なつながりと近接性を持つ国との関連で検討されるべきであると考えた。
英国の最も近い隣国といえども、競馬の統治、構造、認識には国によって違いがあり、それが鞭のルールの進化に影響を与える可能性がある。

このことを念頭に置き、運営グループは、英国競馬が自動的にこれらの国のいずれか、またはいずれかと調和するべきだという明確な推奨を行うことには消極的で、代わりにBHAがその国際的カウンターパートとの調和についての議論において主導的役割を果たし続けるべきであるという考えを示しました。

推奨事項
1:安全のための鞭の使用は、規制の基本原則であり続けるべきである。
2:鞭の携帯を義務付ける規則は、(必ずしも使用する必要はないが)維持されるべきである。
3:プロクッション鞭の使用は、奨励のために引き続き許可されるべきである。
その使用について強力かつ適切な規制を行うこと。
4:鞭のルールは、奨励のための使用をバックハンドのポジションにのみ制限するよう修正される予定である。
5:鞭のルールと罰則を調和させることは前向きな希望である。BHAは、アイルランドやフランスをはじめとする国際的な団体と調和を図るための議論において、引き続き主導的な役割を果たすことが望まれる。

さて、日本にどの程度影響が及ぶかを推測する部分です。
「明確な勧告を行うことには消極的(reluctant to make a clear recommendation)」とは書いてあるものの、「議論において主導的役割を果たし続けるべきである(continue to play a leading role in discussions)」と二面性を感じる所ではあります。
まぁ、消極的な面を書いている段階で、そこまで他国に押し付けるような立ち回りはしないかなぁ、という気はしますが、ブリテンの言葉を鵜呑(ry


コメント

  1. 名無し より:

    鞭のルールの国際的な調和は、回答者の大多数によって望ましいと考えられていた。

    majorityはあくまで過半数であって、大多数ではありません。
    イギリスだけ厳しくして競技性が低くなったり、
    規制の強さで国内外から良い馬が参加しなくなるのは問題である。
    世界ではルールも運営も異なるから、せめて隣国のアイルランドやフランスとは
    議論して近いルールにはしておきたい。
    その役割はBHAが担っていくべき。

    ということです。

    • Luthier より:

      コメントありがとうございます。

      翻訳に関しては、バシバシ指摘くだされ。
      そんな感じで近隣国間で収まってくれれば良いんですけどねぇ。
      頼むからIFHAのテーブルに乗っけてくれるなよと。