モレイラ@ヘリファルテが騎乗停止となった理由の考察

10月6日東京9R本栖湖特別でJ.モレイラ騎手が決勝線手前の斜行で実効2日間の騎乗停止制裁を受けました。
中継ではそこまで深刻な事象には見えず、F1とJリーグとラグビーの浮気から時間を置いて戻ってきたら騎乗停止と聞いて驚き。
そしてパトロールを見ても、一見は騎乗停止に見えない事に少し戸惑う。
でも、何度か映像を見直すと何となく理由が見えてきた。
このエントリーでは、この事象が騎乗停止に相当するのが妥当なのか考えてみよう。


事象概要

モレイラ騎乗の5番ヘリファルテが内へヨレた事で、7番ブラックプラチナムが煽られる。煽られたブラックプラチナムは逃げる感じで内へヨレ、その内にいた4番マスラオの進路が狭くなった。
加害馬に騎乗していたモレイラ騎手には実効2日間の騎乗停止制裁が課せられた。

正面パトロール

パトロール映像(斜め)

斜行して煽ったとはいえ急激な進路変更を伴うものではなかったし、被害馬と直接の接触はしていない。
鞍上のモレイラも右手綱を開いて修正しようとしている意図が見える。
これらを考慮すると騎乗停止が課せられたのは不当に重く感じられるが、本当にそうなのであろうか。

「制裁事象を論じるときには横で比較する」が基本である。
裁量に疑問がある時は、類似事象を出して正当性を検証しなければならない。
「決勝線手前で直接の接触はしていないものの他馬にプレッシャーを与えて内へ追いやり進路に影響を与えた事象」の類似例としては、2月17日東京12Rの事象がある。
間隔や勢いの差、蛯名の余計なオーバーリアクションもあるが、この事象で加害馬騎乗の中谷騎手に課せられたのは過怠金3万円であった。

参考事象1(2月17日東京12R:過怠金3万)

3万円と騎乗停止2日間。
この裁量差はどこから生じたのだろうか。
過去の事象を引き合いに出しつつ考察してみよう。


考察1
・審議対象事象だから騎乗停止になった?

今回はゴール前の接戦事象で入線後に審議となっている。
但し、それ自体が騎乗停止を確定させるものではない。
例えば、3月24日中京8Rは審議対象となったが過怠金5万となっている。

参考事象2(3月24日中京8R:過怠金5万)

審議となると見た目より高めの過怠金となる事が多い印象はあるが、それだけで今回の事象が騎乗停止に値するとは言えないだろう。


考察2
・継続的な斜行が問題視された可能性

ヨレている馬に対し修正扶助を入れていたとしても、修正できずに継続して斜行していた場合は見た目以上に重い制裁が課される場合がある。
特に修正扶助が不十分と判定された場合は顕著だ。
例えば、2月25日中山1Rでは緩やかであるが200m近くヨレ続け、最終的に内の馬を軽く煽った事象で10万の過怠金が課されられている。

参考事象3(2月25日中山1R:過怠金10万)

今回は参考事象より斜行していた走行距離は短いものの、十分に斜行の継続性は認められると言っていいだろう。
これだけで停止処分に達したとは言えないが、裁量に影響している可能性は否定できない。


考察3
・モレイラ騎手の動作に修正扶助の意図がなかった可能性

さて、今回の制裁で最も影響していると思われるのがこの点である。
最初から書け。

正面パトロールの映像では右手綱を開いて何とか修正しているような意図が感じられる。
しかし、斜めからのパトロールを見ると開いているはずの右手綱が妙にだるだるで扶助になっていない時がある。まるでデビュー直後の服部くん。

そして改めて正面パトロールを見直すと左膝を立てて脚を入れつつ重心を内へ寄せているようにも見える。

さらに中継映像で直線のモレイラを最初から見ると、どうも途中から様子がおかしい。
右手で馬の首元をバシバシ叩いているように見えるし、何か焦っているようにも感じる。

そこで動きが明らかに変わる前後をゆっくり見てみると・・・

ん?

ムチ落としてる!

—-

これで話が色々と繋がってくる。
あの不自然に緩い右手綱は見せ鞭の代用扶助として振り回したのではなかろうか。
となれば左膝を立てて追っているのにも説明がつく。
今回の事象は「馬が内へモタれて手綱でも修正できませんでした」ではなく、
右の見せムチで外から圧力を掛けつつ内のブラックプラチナムへ併せに行く動きが上手くコントロールしきれず煽る形になった」として騎手の過失として判定された可能性が高い。

馬の悪癖でなく騎手が主導であったとすれば重い制裁となった事も理解できる。

ただ、騎手の過失性が高かったとして被害馬の影響が騎乗停止に値するレベルだったのだろうか?
最初に挙げた参考事象1は右手前ながら右ムチを打ち続けていたが、過怠金3万円に収まっている。
ここでもう一つ考察を追加してみよう。


考察4
・入線着順に直接的な影響を与えた可能性

現在の降着ルールは「その走行妨害がなければ被害馬が加害馬に先着していた」と判定された場合にのみ適用される。
この降着基準に関しては以前に書いた記事(参考:JRAの降着基準について)を参考にしてもらうとして、この基準を導入するメリットの一つに「着順の影響と騎手の過失との裁量の切り分け」という点がある。
この基準をアジア内で統一する旗振り役を担った香港競馬では「馬の悪癖で斜行し降着になったけど騎手はお咎め無し」といった事象もあるそうだ。
翻ってJRAであるが、残念ながらこの切り分けは実に中途半端な形に留まっている。

2017年9月24日中山1Rでは横から当てて進路確保して1着入線も被害馬とハナ差で着順入れ替わり、加害馬の柴田大知騎手に実効2日間の騎乗停止処分が課せられた事象があった。
これは、降着が絡んでいなければ軽めの過怠金で済む程度の過失である。
着順への影響度が裁量に考慮されるのは致し方ないものの、現在は降着対象の裁量が跳ね上がり過ぎの印象は否めない。

参考事象4(2017年9月24日中山1R:騎乗停止2日間)

今回は審議対象となったものの、降着とはなっていない。
審議対象となった事が裁量に決定的な影響を及ぼさないことは上に書いたが、問題は3着4着である。
ブラックプラチナムに押されたマスラオは脚色が鈍り、一旦迫ったサンデームーティエから再度離されてクビ差の4着となっている。
降着基準として、入線直前の脚色差は重要視される傾向がある。
もし、サンデームーティエが寄ってマスラオに接触した事象であれば、降着の可能性が50%位はあるだろう。

パトロール映像(斜め:3,4着アップ)

つまり、ヘリファルテとモレイラは間接的な降着事象を招いており、これが裁量に最後のダメ押しとなったという可能性である。
降着基準のカテゴリー1を採用しておきながら間接的な着順影響を考慮しているとすれば、JRAの採決はデコピン物であるが、本当に裁量に影響を及ぼしたかは分からない。


最後に

自分がこの事象の裁量を付けるとすれば、過怠金10万といった所だろう。
騎手主導の事象とはいえ、最初に挙げた参考事象と過失性や影響度の差が騎乗停止に至るとは言えない。
それは、他の参考事象を引き合い出したとしてもである。
採決からすれば、騎乗停止と判定するに至るひと押しが裏であったのかもしれないが、それが最後の考察に該当するものだとすれば、JRAの採決はカテゴリー1との付き合い方をもう少し考え直すべきだと思う。
または「ゴール前の接戦状態でダルダル手綱とかワレ頭湧いとるんか?」とかいう警告の意味であれば良いが、その辺の理由はワカラナイ。

まぁ、いずれにしろ今回の採決でモレイラのJRA通年免許には逆風が吹き、美浦の騎手室には安堵の空気が流れているだろう。
競馬村の安定には、その方が良いのかもしれない。
まぁ、本当に万歳する騎手がいたら「とっとと栗東に食われちまえ」と思いますがね。