藤田伸二が好きだ

その1:トントン乗りが好きだ
その2:ムツゴロウさんが好きだ
その3:藤田伸二が好きだ(いまここ)
その4:脚で動かす考え方も好きだ
その5:やきそば乗りが好きだ
その6:鈍い馬が好きだ
その7:蛯名正義が好きだ
その8:幸英明が好きだ


特別模範男、常にフェアプレーを最優先する男、曲がったことは大嫌いな男、物事には常に筋を通す男、でも香港で制裁食らったときには通訳の言いなりになって制裁を受け入れちゃったりする男、トランセンドの内から割り込まれた時にビックリするように内を振り向いちゃって世界相手だと厳しいところを晒しちゃった男、エージェントが大嫌い男、でも関西の若手に乗り馬食われてきたら敏腕エージェント植木靖雄を頼りに関東の乗鞍を増やしてた男、とりあえずJRAが悪いと言っておけばいいと思ってる男。

とまぁ、称賛も非難も星の数ほど挙げられる毀誉褒貶MAXなお方。
ただ一つ言えることは、騎手としての腕は日本随一であったのは間違いない。


彼の著書である「騎手の一分」
内容に関する評価は置いといて、その中で騎乗論の一つとして書かれていたムチの使い方をここに紹介してみたい。

俺は馬体が収縮した時にムチを入れるが、欧州の騎手や岩田は馬体が伸長した時にムチを入れる。
どちらが正しいのかわからないが、馬はムチを入れて加速するのだから収縮した時にムチを入れるのが正しいと思う

既に古本屋に売ってしまったので、原文とは違うが概要はあってるはず。
これは前回のエントリーで書いた古い日本競馬的な考え方で違和感を覚える典型例だ。
馬はムチを入れたら何故加速するのか、の「何故」に対する考え方が希薄なのである。
自分がムチの使い方に関して書くならこんな感じだろうか

ムチによる扶助によって馬は打撃と音の刺激を受ける。
刺激にたいしては反射的に体を収縮して逃げる動きを取るので、収縮し始めた時に打つのが馬の動きを阻害しない扶助となるのではないだろうか。
ただ、収縮しきる直前にムチを入れた場合、後肢を深く踏み込ませる事が見込めるので、馬によってはこちらを選択する事もあるだろう。

子供でも大人でもペットでもいい、ある程度の強さで手を叩いてみてほしい。
反射的に手を引いて刺激から逃げる動きをとるはずである、馬に限らず動物は刺激に対して反射的に逃げる動きを取る。
自分がムチを使用したのは、極めて鈍い馬に静止した状態でベシッと気合を入れた時ぐらいだが、馬は耳をビシっと立てて驚く反応を考えると、競馬の最中でもそれなりの刺激として受け取られていると思う。
その時の収縮の動きをいかに馬の動きの中に取り入れるかが、理想的な扶助の考え方になるのではないか・・・

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と、単純に書いてみたが実際には、ムチの打つ場所や強さ、そして馬の個性や経験によって適切なタイミングは様々であろう。
藤田伸二氏はムチに頼る騎手ではなかったが、それでも打ち方は色々持っていたはずで、それぞれに引き出しは持っているはずだが、言語化した時にチャランポランになってしまう。
論理的に考える現代っ子との壁は相当に厚かった事は容易に想像できる所である。


サラッと皮肉るつもりが、ガッツリ批判文になってしまったが、最初に書いた通り藤田伸二は上手い騎手であった。
でも、それは感覚的な要素が強く、論理的には拙いレベルだ。
藤田氏が現役を引く時に「馬術でもやってくれないかな~」という簡単なエントリーを書いたのは、そうした最上級の感覚を有している職人が論理的な考えが整っている乗馬界に入った時、どういった理論が生まれるのだろうという興味からだ。
そこには新たな発見があるだろうし、競走馬の育成にも引退馬の乗用馬転向にも役立つような部分が見つかると思うのである。

まぁ、20年以上も乗馬界を見下してた人間には難しいことかもしれないですがね。