続・屈腱炎の幹細胞移植療法(ステムセル療法)に効果が無いという説

このサイトの初期に屈腱炎の幹細胞移植(ステムセル治療)に関する事をサラッと書いたのだが、いまだにこのページにアクセスがある。

このエントリーを書いてから約3年。
競走馬総合研究所の機関紙「馬の科学」Vol.55 No.2に”腱組織内に移植されたウマ骨髄由来間葉系幹細胞の動向 ~第3報~”として最新の研究成果が載っていたので紹介しよう。

【背景と目的】
ウマの屈腱炎に対する幹細胞移植治療の効果のさらなる向上を図るため、本研究では「移植された幹細胞が腱組織に定着・生存しているのか?」という基本的な疑問の解明に取り組んだ。また、「急性期と慢性期のどちらの病態で移植することが良いのか?」について幹細胞の定着性という観点から検討した。

~中略~

【結果】
いずれの標識法、いずれの病態(急性期および慢性期)においても移植された幹細胞は移植1日後や3日後の腱組織でも腱内膜を中心に観察され、損傷部の腱束内ではほとんど認められなかった。また、いずれの標識法、いずれの病態においても移植3日後までは全馬において蛍光ならびに免疫染色陽性細胞は腱内膜を中心に認められたが、7日後には見える部位や数は極めて僅かとなり、14日後ではほとんど認められなくなった。

【考察】
本成績から、移植された幹細胞は移植3日後から急速に死滅あるいは腱組織外へ流出し、7日後以降にはほとんど損傷部には存在していないことが示唆された。興味深いことは、病態に係わらず移植直後から幹細胞が腱内膜を中心に存在していたことであった。
このことから、移植された幹細胞は腱内膜を経由して腱組織内を縦横に拡散していると推察され、移植時の超音波動画でもこれを裏付けるような記録があった。急性期の損傷部への移植に比較して瘢痕組織への移植時の超音波動画では、移植と同時に針穴や組織破綻部から腱周囲へ流出している例が多かった。
このことから、抗炎症作用を期待する時期ではないことに加えて、移植時の幹細胞の流出のリスクが高いことから、慢性期での幹細胞移植治療はデメリットが多いと思われた。
本研究成績から、ウマの屈腱炎に対する幹細胞移植治療の効果のさらなる向上を図るための一つの方法として、移植した幹細胞の定着性を向上させる新たな移植方法を検討する必要性が示唆された

The 基礎研究

要約すると、効果があるのかどうか以前に移植した幹細胞が患部に定着してねぇ、というお話でした。
治療法の確立には長い時間と金を要するのだと思い知らされますな。
症例的には骨折の回復に効果が見られるとかいう海外の論文もあったりしますが、まだまだこういった基礎的な部分を積み重ねる段階な訳でございます。

ちなみに、今回の馬の科学には調教強度による効果の検証とか、ミオスタチン遺伝子による調教効果の違いとか、競馬的にも面白い内容が色々あるので、この研究結果の全文以外にも読んでみると良いかもネ。