降級廃止が招く混乱の可能性

問題の根幹を共有しよう

結局の所、この問題はJRAが抱える競走馬の数が多すぎるという根幹に帰ってくる。
外厩の進歩で帰厩から2,3週で実戦復帰という時代である。
在きゅう馬がほぼ臨戦態勢である現代で、抹消馬の入れ替えを含めると年間11000頭を超える出走馬と9500の登録枠と3800の馬房に対し、年間288日最大3456レースでは出走希望を満たすことはできない。
降級を廃止してもなお除外問題が残るのならば、そういう物だと諦めるのか、馬を減らすかの二択となる。
その選択をするのは、降級廃止とレースバランスの調整を終えたあとになるが、現段階から手を打っておきたい問題がある。

それは運営と現場間における現状認識の差異だ。
除外に対して不満を述べる話はいくらでもあるが、その問題が馬多すぎるという根本的な問題に触れているものは実に少ない。
それは、厩舎関係者もファンも評論家の一部も馬が多すぎるという現状をそこまで認識していないという事でもある。
2013年に予備登録枠を3倍から2.5倍に引き下げた際、角居厩舎が新馬の預託をボイコットする騒ぎとなったが、この時はJRAの姿勢を批判するばかりで、預託枠の自由化により現在までに起きている弊害を指摘、比較するような記事は殆ど見ることが出来なかった。
5年経った現在でも、その認識に大きな変化はないだろう。

また、JRA側も腹を割って話す姿勢に欠けていたのも問題であった。
「外厩で仕上げてトレセン滞在を短くして馬房を回転させる手法が一般的になるなんて予想してなかったんです。ゴメンチャイ」
と素直になればいいのに、ヤクザ張りにメンツを気にしているのか問題なのか利害関係の問題なのか分からないが、制度改正の時に出てくるのは問題の核心から逸れたコメントばかり。
誰が「ファンにわかりやすくするための改正」という言葉を信じるというのか。
その回りくどさが不信を生むのである。

管理側と現場側で認識にズレが生じるのは世の常であるが、それを放置しても良いことは何もない。
そんな状況で、ダート路線を狙い撃ちにして頭数を大きく絞るような施策を取れば、実質的に効果的であっても大きな反発を招くことになるだろう。
そして別案を出すのか現状を容認するのか、さらに加えれば地方競馬の主催者も交えて議論すべき内容ではあるのだが、現状ではどこを着地点にするのかという建設的な議論も期待できない。

繰り返しになるが、JRAは馬を抱えすぎている。
まずは、その現状と認識を広めなくてはならない。
降級廃止は目の前である。
それによって起こる問題を議論をしようにも、現在はそのスタート地点にも立っていないのである。

前回:降級制度を廃止する理由と疑問
次回:登録枠の拡大を再評価しよう
その4:私的3歳ダート路線整備論
その5:降級廃止にも対応できる優先出走順位改革案
その6:JRAのスリーアウト法導入についての一考察
その7:将来トレセンの25%が廃業する事になる(かもしれない)という話
その8.新馬戦の除外ラッシュが長期化するかもね


コメント

  1. いち競馬ファン より:

    興味深く読ませていただきました。
    私自身も現状に文句を言うだけの一部の評論家と同じことをしていたので目から鱗が落ちる感じでした。
    現状、専門誌などではこうゆう記事は私が見てる範囲では期待できないのでこれからもこうゆう記事があることを期待しています。

    • Luthier より:

      コメントありがとうございます。

      一応、このシリーズはあと2,3回続きます。
      自分としては、これらの問題を語る時には、何が原因で何が起きているのかをきちんと共有しなければならないのだろう、という認識です。
      この問題を解決するにはどこかを切り捨てなければならないんですが、問題を共有できぬままで強行した所でろくな事にはならないですから。
      開催日数の拡大を実現できる政治力のある人がポンと出てくる奇跡が起きれば話は別ですが。

  2. いち競馬ファン より:

    単純な開催日数の拡大ですと地方は反対するでしょうし、ダート馬の問題含め何をするにしてもやっぱり中央と地方が一括した組織になるほうがよりスムーズに問題は解決できそうですね。それが難しいから小手先だけで解決する方向にいってるんでしょうけど

  3. Luthier より:

    開催日数の拡大は地方よりも官僚と政治機構でしょうねぇ。
    海外馬券の発売でも売上に何かしら紐付けしようとしてましたし、あいつら使えねぇ。

    この問題は中央と地方が一体となって考えないといけないんですけど、なかなかその方向に行く気配がない。
    本来は一体となって競走馬のライフサイクルのモデル構築しないといけないんですけどね。