屈腱炎の幹細胞移植療法(ステムセル療法)に効果が無いという説

2008年頃、屈腱炎の革新的治療法として幹細胞移植(ステムセル移植)という言葉が様々な媒体で踊っていたのを覚えていますでしょうか。
当時、カネヒキリが幹細胞移植を”含む”治療を経て劇的に復活を果たし、尚且つ再発せずに活躍を続けたことから、不治の病とされた屈腱炎を克服できる魔法の新技術として鮮烈な印象を残し、以後、屈腱炎を発症する馬が出る度に幹細胞だステムセルだと紹介される期間が長く続きました。

さて、あれから5年以上が経ち、屈腱炎発症の記事とセットになっていた幹細胞移植という言葉があまり聞かれなくなったように思えます。
なんでじゃろ、という事で2012年に発表されたJRA競走馬総合研究所の「競走馬臨床における再生医療技術の導入に関する研究」という資料に幹細胞移植の研究成果が載っているので、見てみましょう。

移植治療の腱組織再生に関する研究(図2)では、初年度に滑膜リセクターを用いた最新の腱損傷モデ ルの作製法(Schramme,M.,2010の変法)を確立した。2・3年度には、そのモデル馬を活用し、移植治 療の有用性を検証した。移植から6ヶ月間のリハビリを完了した馬の腱組織について解剖学的(修復部の 腱細胞数・微小血管数の比較)および分子生物学的(修復部の腱組織関連遺伝子の発現の比較)に解析し たが、幹細胞移植による組織再生の効果を明らかにするには至らなかった

競走馬総合研究所年報 2012年より

という訳で、幹細胞移植に効果はありませんでした。チャンチャン。

ってちょっと待て~い。
一応補足しておくと、馬の再生医療は基礎研究段階で、幹細胞移植に効果が無いといえる段階でもないというのが現状のようです。
一口に幹細胞と言っても様々な種類があり、投入のタイミングや手法なども様々で、結論が出るにはまだ長い時間が必要なようです。
実際に海外では幹細胞移植による腱組織の再生に効果があるとする論文もありますし、ここで引用した情報も3年前のものですから、現在は違った研究成果が得られているものと思われます。

とりあえず、ここでは幹細胞治療にウン千万突っ込んだ馬主の方々へ、基礎研究へのご協力ありがとうございました、と御礼の言葉を残しておきたいと思います。